デジタルビデオのファインダーを覗きながら、クジラの出現を待つ。
大海原のどこに出現するのかわからないから、もちろんレンズは広角側に。しかしあまりにも広角にしてしまうと、クジラが遠くに出現した場合には小さいイワシにしか見えないため、必要以上に広角レンズを使うのも考えものだ。むしろすぐにズームアップできるように、指をレバーに添えて、その瞬間を待つ。
『ああぁ!いた!!』
乗客の一人が叫ぶ。すぐさま声のするほうを向いて、視線を確認する。
その人の視線の先をファインダーで追っかける。
「・・・・」
クジラの姿なんてどこにも見えない。どうやら一瞬だけ見えるブロー(潮吹き)だったようだ。
あ〜あ、これで今回のツアーは成立だ。
ツアーに同行した誰かがクジラを確認できた場合は、ホエールウォッチングツアーが成立する。つまり、クジラが見えなかったという理由で再チャレンジする権利は消滅するってことだ。
再び乗客から歓声が上がる。『おお〜〜』
ところがビデオのファインダーでは何も見えない。
「・・・・・」
こりゃあかん。ただでさえどこに出没するかわからない相手を前に、視野の狭いファインダーで追うっていうのがものすごいハンデになってるんだ。
このままだと、クジラそのものを見ずに終わってしまうかも。
すでに他の乗客とは、ブロー2回分の差がついている。
こうなったら、しばらくの間、ビデオは音声を録音するために活躍してもらうことにして、ノーファインダーでビデオは持ったまま、肉眼でクジラのウォッチングをすることにした。