今週のお題「こぼしたもの」
あれは遠い日の思い出。
そう、まだ僕が幼かった頃の夏の日のお話。
その日は母親に連れられ、家から遠く離れた小さな滝と川遊びができる小川のある涼しい場所に連れて行かれました。
路線バスに揺られ、電車に乗り換え、子ども心には遠い道のりでした。
ようやく到着したその地は、まるで天国のような涼しさ。(と、記憶している)
ごつごつとした大きな岩の間を、ほどよく丸みをおびた大きな石が点在する川で水遊び。冷たい水が飛沫をあげながら流れていく川には、小さい川魚がいっぱい住み着いていました。
川魚なので家の水槽でも飼えるかもしれないと思い、網を借りて小魚たちを掴まえ、ビニール袋に川の水と一緒にいれて自宅まで持って帰ることに。
多分、金魚すくいでもらえるような、紐がついた袋だったと記憶しているが、帰りの電車の中で、たくさんの小魚がビニール袋の中で泳いでいるのを見てて、とても嬉しかったことを覚えてます。
電車を降りてバスに乗り換える。
昔の話だ。道路の舗装も良くない。バスはよく揺れた。
僕は水がこぼれないように、ビニール袋をしっかりと持って乗っていた。
バスは何度も停留所に停まりながら走行していたが、なんせ暑い夏の日、冷たい川に入っていっぱい水遊びを楽しんだ後の、子供の頃のお話である。バスの揺れはそれはそれはゆりかごに揺られているようで、とても心地よかったのである。多分・・・。
ふと気がついたら、しっかりと持っていたはずの袋が手から無くなってる。
あっ!
椅子の下を見ると、袋からこぼれた水がバスの床面に広がっていた。
水が無くなってしまい小魚だけになった袋を拾い上げ、幼かった僕は祈るような気持ちで袋を持ち続けたのであった。
『お魚さんたち、水が無くても生きていてくれ・・・』